- 04THE VOICE for MEN
- 03THE VOICE from REAL LIFE
- 02THE VOICE for MY IDENTITY
- 01THE VOICE to HERO
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凄腕の剣豪同士は、実際に剣を交えるまでもなくわかってしまうものであるらしい。相手の剣がいかなるものか。初太刀に全力を注入する剣か、浴びせられた太刀に転じて打つ剣か。構えは正眼か上段か八双か、太刀筋は、足運びは。そしてどちらが勝つのか──。
Mr.ダンディズムは、つねに「自分自身がいかに快適でいられるか」を考え、実践する男だ。日常のあらゆる局面における、快適のための哲学を持つ。そうそう、人は彼を“ミスター”と呼ぶ。
彼は気のいい男だ。背筋を伸ばし、よく通る耳障りいい声で快活に挨拶。あらゆる人々に、小動物にも植物にも100万ドル(約1億514万円:2008年5月15日現在)の微笑を投げかける。今朝のひげそりで、通勤の道筋で、ダンディズムを実現できたから。
大好きなハニーをデートに誘ってOKをもらったときや、何日も徹夜して作ったプレゼンでコンペに勝ったときのことを思いだしてみましょう。ミスターは、だいたいいつもそんな気分。つねに快適指数100%、他人に対してヤなヤツであるはずがない。
ただ、ミスターが実現するのはあくまでも内面にある、彼自身の美学。ご機嫌である理由は、他人が見ただけではわからないだろう。
そんなミスターが、近ごろ気になって止まない男がいる。まず見た目から異質だ。もじゃもじゃの長髪を中折れ帽に押し込め、スーツとVゾーンの組み合わせはミスターなら決してやらない類のえぐさ。長い手足をぶんぶん振り回し、何かのインタビューなのだろうか、チャイナドレスの女性にマイクを向けているのを見たことがある。やくざ風の男を蹴り飛ばし、スーツのふたり組にぺこぺこ。
波ひとつ立たない鏡のような水面を持つミスターの心には、彼を見るたびにわかに強風が吹く。驚くべきことである。
確固たる自分を持っているはずなのに、ミスターの美学からしてみれば“悪目立ち”にほかならないあの妙な男に、何かを持たらされてしまう。
......ミスターが、同じバーのカウンターにあの男がいることに気づいたのは、彼の100円ライターのせいだった。天井を焦がさんばかりに轟々と上がる炎。煙を吐き出しながら男は「自由でいたいんだよ」という。その瞬間、ミスターはニッコリと微笑んだ。
なるほど、そういう男だったのか。同じなのだ。己の美学、である。ただミスターはひたすら内面を見つめ、澄み切った湖を守ろうとするのに対し、例の男は荒々しい波を立てて周囲をざぶんざぶんと巻き込んでゆく。外に対して臆することなく、己を打ち出してゆく自由闊達さ。それが関わるものを良くも悪くも虜にする。
こういう男を、そんなふうに呼ぶのだろう。ヒーローの方に、ミスターはゆっくりと目を向ける──。
カウンターのなかでグラスを拭いていた男は、後にこう語った。
「すごく穏やかな目線だったけど、やり合う!って思った。たっぷり1分ほどして、ふたりとも視線を外してグラスを傾けたんだ」。
文/武田篤典
1967年大阪生まれ。関西学院大学在学中にライターとしてデビュー。『R25』にて人気コラム「スマートモテリーマン講座」を担当する傍ら、人生の酸いも甘いもかみ分けた男のダンディズムをインタビューしている。
