- 04THE VOICE for MEN
- 03THE VOICE from REAL LIFE
- 02THE VOICE for MY IDENTITY
- 01THE VOICE to HERO
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それまでは強くて完璧な者こそがヒーローだと思っていた。思っていたというより信じていた。信じさせてくれなければヒーローじゃなかった。
ウルトラマン、ミラーマン、スペクトルマン、みんなみんな完璧だった。強くてカッコ良くて、最高だった。したがって公園ではヒーローごっこが盛んになり、運良くヒーロー役を勝ち取ったこどもは、悪い怪獣をやっつけると胸を張り、頭上を見上げてからシュワッチと叫んで、怪獣役の友だちにバイバイも言わずにお家まで一目散に帰って行った。
ヒーローごっこを卒業したこどもたちは、次に『憧れ』を求めた。大怪獣をやっつける無敵のヒーローではなく、あくまで地球人の、それも日本人の、できれば本当にその辺りにいそうなリアリティがあって、だけどものすごく格好よくて、真似をしたくてたまらない存在を求めていた。
そんな時に彼はやってきた。ブラックスーツに身を固めソフト帽とサングラスをトレードマークにヴェスパを転がしながら、ちょっとだけ向こう側からやって来たのだ。
工藤俊作。私立探偵。通称 ”工藤ちゃん”。
完璧とはほど遠い、あまりにも人間的な街の人気者。彼は仲間を愛し、街を愛し、悪い奴らに巻き込まれ、悪い奴に間違われ、それでも探偵活動をするうちに人々の心の中から失われた何かを見つけ出し、それに気付かせ、感じさせ、しんみりと考えさせた。
そうすることが彼にとっての一件落着であり、事件解決の暁には、最大火力で着火したキャメルのタバコを一服して、またヴェスパにまたがり帰って行くのだった。
そこには憧れがあった。強くなることは人を傷めつけることではなく、人に優しくすることなのだと知った。人に優しくするためには、自分を裏切らないことなのだと教えてくれた。自分を裏切らないということは、自分らしくあり続けることなのだと伝えてくれた。なによりカッコ悪いことを隠すよりカッコ悪いところもあるのが本当のカッコ良さなのだと教えてもらった。
俳優とは単なる観賞対象ではなく、観る者の何かを突き動かすための刺激だ。名作と謳われる数々の物語の名作たる所以は、そのストーリー性だけではなく、人の感情を揺さぶり突き動かす役者という名の刺激があるからに他ならない。
いつまでも色褪せない刺激は、記憶の中に留まり、それはやがて、今自分はどう在るべきかを考えさせてくれる鑑となる。カッコ良さも、カッコ悪さも、嘘も本当も、仲間も他人も、街も仕事も、ぜんぶ。その映像から獲得した刺激が、観た者のなかで脳裏にこびりついて離れないのである。
映像は現実よりも偉大とは言わないが、ときに映像は現実を超えるパワーを放つことがある。だからこそ、そこからヒーローは誕生し、人々は映像の中に憧れや希望を抱くことができるのだ。
時代はいつだってヒーローを求めている。
いや、いつの時代にもヒーローが必要なのだ。
だがそれは完全無欠なものである必要などない。
むしろ当たり前のことを当たり前にできる人間っぽさを持つことが、今という時代においてはもっとも必要なヒーローの条件なのだ。
そして『探偵物語』の映像の中から工藤ちゃんは我々にこう呟くのである。
「ヒーローであることよりも、ダンディズムを持つことの方がカッコイイよ」
またしても工藤俊作は、僕らの心の奥底にまで強烈な刺激と宿題を与えるのであった。
文/栗山圭介
クリエイティヴディレクター
マロンブランド代表。今回のTHE VOICE BOOKのプロデュースの他、丸の内ハウスにおける探偵物語のイベント、メディコム・トイから発売されている松田優作のフィギュア監修なども務める。
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