- 04THE VOICE for MEN
- 03THE VOICE from REAL LIFE
- 02THE VOICE for MY IDENTITY
- 01THE VOICE to HERO
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欲張っていますか? 張り裂けそうになっていますか? 今ある生活の中で、“もういいや”ではなく、“もっと欲しいな”って悶々としていますか?
それを求めれば苦悩が伴うことなどはなから承知だけれど、目的に伴う苦悩や傷みはやがて血液を逆流させるほどにエキサイティングなことだということはご存知でしょうか? そして、もうひとりの松田優作を知っていますか?
彼はミュージシャンでもあった。元々は舞台俳優からキャリアをスタートさせた男である。その彼がステージに立つ快感を知らないはずがない。彼が音楽と関わることはいわば運命だったのだ。
ところが運命はキャンディのように甘くはない。俳優として絶大なる人気を誇っていた彼にとって、それが釣り合うものでなければ、音楽は松田優作を否定するものにもなりかねなかったからだ。
彼の運命に対する本気さを裏付けする事実がある。彼は杉並の自宅地下にリハーサルルームを拵えたのだ。無論ミュージシャンとしての。その場所は単に音楽を制作する場所というものではなく、音楽というものの中にある何かを、探し、壊し、繋ぎ足しながら独自の音楽を生産していくための場所であった。
松田優作の音楽を聴いて誰かはRockと、また誰かはBluesと謂う。音楽の境界線にどこからがRockでどこまでがBluesかと定義されているわけではないから解釈はもちろん自由だが、そんなことなど百も承知の上で余るほどに松田の音楽は自由である。
自分の足下にヒタヒタと絡みつく影のようなブルージーなコードを鷲掴みにして前方に投げ飛ばし、ロックテイストにチェンジしてしまうことだってある。それはおそらく芝居の台本に目を通し、台詞を脳天に流し込むときに起こる衝動のようなものかもしれない。
紙の上にある台詞に命を吹き込むために必要なことは、「その台詞を発するのは松田優作だ」という自負である。
台詞を読んで脳がうごめき肉体が反応し、それが誰もの目を奪うような演技となる。共演者は一瞬の空白の後に我を取り戻し、やがてそれに連鎖する。連鎖とは共演者やスタッフの自負であり分り易く言えばプライドであり勝負だ。つまりは松田優作という存在そのものが作品に関わる者たちの中にある火薬に火を注ぐことになるのである。
松田優作の演技は感性に溢れ、且つ刺激的だった。彼にとって、音楽もまた、同じステージであった。役者であろうが音楽であろうが、その礎を創るのは本人の感覚によるもの。感覚こそが感性を誘導し、そこに「人間」がどっぷりと滲み込んでゆく。どこからどこまでという計算式を破壊せずにはいられないロマン、それにともなうリスク。それらをすべてバーボンと一緒に胃袋に流し込んで、スリルという情感が生産されるのだ。
松田優作の音楽とは何だったのか。誰もがこの問いかけに戸惑うけれど辿り着く場所は同じだ。考えれば考えるほど出口が見えなくなる迷路みたいなものである。それは俳優・松田優作を語るも同じで、どの作品のどのシーンがという具体的な展開に関してはそれぞれに持論を愉しむことができるのだが、こと「俳優・松田優作」となると、漠然とした、けれど意志も温度もある風が足下から脳天の間を緩急をつけながら循環しているだけ。その風は決して止まない。彼のことを少しでも思えば、そこにはあの風が流れ木霊し続けるだけ。
松田優作の音楽もまた、風である。俳優のそれよりも少しだけ自由で奔放な風。ただ流れるのではなく、人の心の襞に心地よく張りつく立体的な風。
欲張った男の音楽。その奏では彼の役者としての一部だったのかも知れない。そして彼の音楽に触れることでしか、松田優作の真のダンディズムに触れることはできないのかもしれない。
Information
松田優作のミュージシャンとしての活動を
コンプリートしたCD-BOXが発売中。
発売元:ビクターエンタテインメント
